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片桐はいり 『グアテマラの弟』


グアテマラの弟 (幻冬舎文庫)グアテマラの弟 (幻冬舎文庫)
(2011/02/09)
片桐 はいり

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片桐はいりさんが好きだ。彼女のように味のある人間になるのが私の夢。するめのように噛めば噛むほど味が出てくる人間。理想は遠い。

ところでエッセイというのは、書き手の視点でいろんな事象を切り取るわけで、書き手の人間性が如実に現れる。だから書き手が個性的で、その人独特の味がある人であるほど面白くなる。つまり片桐はいりさんのエッセイが面白くないわけはないのだ。フィンランドの旅行記である前作「私のマトカ」も面白かったが、本作「グアテマラの弟」はそれを凌ぐ。

はいりさんの弟さんはグアテマラ(ガテマラとかも言われる南米の国)に住み、あちらに奥さんも子供さんもいる。私は以前はいりさんがこの音信不通だった弟さんに会いにファックス片手にグアテマラに行った顛末について他人から聴いたことがあった。なんでもテレビでそのときのことをやっていたのだという。そういうわけで本書はそのときのことを書いた物なのかと思っていたらそうではなく、その後すっかり連絡を取り合うようになった弟さんのところへ、再びはいりさんが出かけていったときのことが書かれている。

というわけで本書はグアテマラの旅行記、見聞録であるのだが、それだけではない。軽妙なはいり節で語られる遠い異国での体験は、しかし意外にも日本での家族の過去の記憶と結びつく。おそらくグアテマラがただの異国ではなく、弟さんとその家族が住む場所であるから、そこでの体験が遠い日の家族の記憶を呼び起こすのだろう。それによって本書はただの旅行記ではなく、素朴で温かい家族のエッセイにもなっている。その按配がなんとも絶妙なのだ。

申し訳ないが正直言って私はグアテマラに行きたいとは思わないし、行くことはないと思う。なのだが、そのグアテマラが何とも身近に感じられた。トイレのこととか、普通ならゲッと思うような話も不思議とぜんぜん嫌だとも思わなかった。それどころかグアテマラに親しみや愛着に似た感情を抱いたぐらいだ。それはこの国の持つ底抜けの明るさだけではなく、はいりさんのグアテマラへの愛情が自然とその筆を通して文章ににじみ出ているのではないだろうか。

そういうわけで絶対に行くことはないと思う国への旅行記にもかかわらず、本書は旅行記としてもとても楽しめたし、そこから思い起こされる懐かしい家族の話に私の胸はしばしば熱くなった。こんな本が書けるなんて、やっぱりはいりさんはすごいと思う。

テーマ : オススメの本
ジャンル : 本・雑誌

2011-06-01 : 今月のオススメ : コメント : 0 : トラックバック : 0
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内澤旬子 『センセイの書斎』

センセイの書斎---イラストルポ「本」のある仕事場 (河出文庫)センセイの書斎---イラストルポ「本」のある仕事場 (河出文庫)
(2011/01/06)
内澤 旬子

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本好きならばだれでも、自分以外の本好きの人がどんな本を読んでいるのかが気になる。まして本と自分だけの空間である「書斎」を持つことは本好きの憧れである(と私は思っている)。そういうわけで書名から思わず手にとったのが本書。

てっきり私はいろんな先生方の自分のお楽しみ用の本が並んでいることを期待したのが、本書で取り扱われていたのは「仕事で使う本」。学者や作家、あるいはさまざまな分野の第1線で活躍し、「仕事」で本を使う専門家の「センセイ」に仕事用の書斎(だから研究室などが多い)を見せてもらって、「仕事で使う本」の集め方や使い方、整理の仕方などを聞き、その書斎と本棚の本の分類の仕方からタイトルまでを緻密なイラストで描いたのが本書である。

そういうわけで私の当初の期待とはちょっと違ったわけだが、おこがましくも仕事で本を使う人間の一人として、それはそれで興味深く拝見した。

登場されるのは仕事で本を使うセンセイ方なのに、愛書家という人は意義に少なく感じたが、やはり皆さんかなりの量の本をお持ちだ。ほとんどのセンセイが量の多さゆえに本の置き場所に苦心されていた。そういえば曲がりなりにも私も愛着を感じるのはもっぱら自分が楽しみとして読む本(小説など)で、専門の本はあくまで資料としてしか見ておらず、愛着は特に感じないし、増殖する本や書類、そして愛書をどう整理していいのかに頭を悩ましている。

整理術で参考になったのは、徹底してシステマチックな社会学者の上野千鶴子センセイの本棚。いくつか大きなカテゴリーに分けるだけであとはすべて著者の五十音順で本棚に3列に並べるという方法。私もカテゴリー分けに悩み、探し物がどのカテゴリーかわからなくなって見つからなくなったことが何度となくある。翻訳家の米原万里センセイも最初から細かく分類してはいけないとおっしゃっている。しかし、上野センセイの整理術は学生さんの手を借りていればできること。そのまま一般人がマネをするのは難しい。

米原センセイは郵便からチケットの半券まであらゆる雑多なものを月ごとのファイルに1日1ページファイルなさっている。ナルホド。これに似た手は使えそうだ。

ところで、上野センセイも「本棚を見せると人格がわかられてしまう」とおっしゃっているように、紙きれの山のセンセイから戸棚に綺麗に片づけられたセンセイまでいろいろだが、「仕事の本」ではあってもやっぱり書斎、本棚はその持ち主の趣味、嗜好、人柄を反映していると思った。それにセンセイたちの本棚に共通していたのは、その方の専門にとどまらない多分野にわたる本が並んでいたこと。その道の一人者たるセンセイは、狭いその分野だけをやっているわけではなく、いろんなことに関心を持って、無意識にそれらをつなげながら独自の道を切り開いているのだろう。

そしてセンセイ方の書斎そもそもに加え、本書を大いに魅力的にしているのはその緻密なイラストである。部屋を天井からのぞき見るように切り取ったアングルは写真ではなくイラストでしかできない技だ。そしてこのイラストはその書斎の特徴や雰囲気がよくあらわれているし、知りたいと読者が思う情報が、まさにかゆい所に手が届く感じで細かく書き込まれている。この情報の取捨選択の絶妙さに加え、写真と違い手書きだからこそ、読者は思わず細部まで目を凝らして眺めてしまう。採寸までして正確に描かれたイラストは、間違いなく写真よりも細かく正確な情報を与えてくれている。

先日他人のカバンの中身をみるのはその人のプライベートを覗き見している気分になると書いたが、書斎、本棚をみる本書はセンセイ方の頭の中をのぞき見ている感覚だ。

当代一流のセンセイ方の頭の中、大変面白く拝見しました。

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2011-03-26 : 今月のオススメ : コメント : 0 : トラックバック : 0
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畠中恵 『いっちばん』

いっちばん (新潮文庫)いっちばん (新潮文庫)
(2010/11)
畠中 恵

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ドラマ化もされた「しゃばけ」シリーズの第7弾。毎年文庫化されるたびに読んできたので、もう5年ぐらいはこのシリーズとお付き合いしていることになる。

人ならぬ血を受けつぎ、あやかしたちが見える病弱な若だんなと、人のふりをして若だんなを守る2人(?)の兄やをはじめとするあまたのあやかしたちが繰り広げる軽い謎解きと悲喜こもごもを描くこのシリーズ。「あやかし(妖)」というと何となく怖いもののイメージがあったが、このシリーズでは実に人懐っこく、かわいらしい、愛すべきキャラクターだ。全体にほんわかとした雰囲気が漂い、時代小説なのだけれど全くそういった敷居のようなものを感じさせず、子供から大人までが親しみやすい。これまでにない時代小説シリーズとなっている。

5編の短編からなる今回もそんな「しゃばけ」ワールド全開だ。今回はおしろいを顔に白壁のように塗りたくっていたお雛ちゃんの成長を描いた「ひなのちよがみ」と、シリーズ最初からの登場人物であり、菓子作りの修業に出てから登場が減っていた若だんなの親友、栄吉が主人公となった「あんこは甘いか」が特に良かった。栄吉はどうしているのかな?と思っていただけに、その葛藤と成長を描いたこの短編は「しゃばけ」シリーズファンには嬉しい1本。

しかし1つ言わせてもらえば、今回で第7弾となったこのシリーズは短編を集めたものがほとんどで、長編は2作だけ。脇の登場人物をメインにとった短編などもいいのだが、このシリーズ独特の世界観にも慣れてきて、最近少し停滞感を感じる。短編では描かれるストーリーの広がりにも限界があるし、シリーズ全体のストーリーを展開していくというのは難しい。そろそろこのシリーズの主人公である若だんなの活躍や成長、かわいくてちょっとすっとボケたあやかしたちの活躍をいかんなく発揮してもらいながらシリーズに新たな展開をもたらすような長編を期待したい。

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2011-03-19 : 小説 著者名 は〜わ行 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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岡田光代 『ニューヨークの魔法の言葉』

ニューヨークの魔法のことば (文春文庫)ニューヨークの魔法のことば (文春文庫)
(2010/01/08)
岡田 光世

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ニューヨーク在住の著者によるニューヨークの人々との何気ない日常を切り取ったシリーズ第3弾。
これまでの2冊同様、世界一人間くさい大都市といえるかもしれないニューヨークとそこに暮らす人々が生き生きと描かれている。暴力や危険がはびこるいかにも大都市ならではの一面も持ちながら、見ず知らずのその場に居合わせた人と会話を交わしたり、友達にもなってしまうというあけっぴろげな他者との関わり方は、けして東京では見られない、ある意味日本人の思い描くアメリカらしさそのもののように思う。

ニューヨークと東京での人との関わり方の差はどこから来るのか?その答えは本文中に用意されている。
 「心を通わせようとすれば、人はそれに応えてくれる」
他人に心を開き、街で一度きり出会う人たちと、少し接し方を変えてみたなら、この東京でも他人との関わり方が変わって感じられるかもしれない。それなら試してみたい、そう思わせるだけ、この本に出てくる人々は個性的で楽しい。そして彼らは人生を知っている。

今回とても私の胸に響いたのは、アメリカ人が多用する「楽しむ」と言う言葉をかけられているうちに、著者の岡田さんが「ありがとう、という気持ちになると、楽しめるのだ」と気づいたというくだりだ。期待通りに行かない時も、ちょっとやだなと思う時も、その自分が置かれている状況で十分にありがたいこと、楽しいなと思えることに目を向けることができれば、それを楽しむことで大抵のことは楽しめる。そうすれば自然と幸せになっていけるというのは、とても納得できた。

特にそのあと別のエピソードで、車椅子生活となった男性が、今日も自分でひげがそれる、あれが出来る、これも出来ると小さなことがうれしくて、生きていることがありがたい。人生は楽しい。人生っていいものだな。と思っているという話が紹介されて、よりいっそう、自分の状況に感謝する、ありがとうという気持ちを持つことが、人生を楽しむ、幸せになる一番の秘訣のように感じた。

シリーズの前2冊もニューヨークとこの街の人々の魅力が満載であったが、彼らの「言葉」をテーマとした本書がもっとも、この街の人々の人生観みたいなものが如実に出ていて魅力的に私には感じられた。

私は生きている。私は五体満足で、行動する上で何の制限もない。私には住む家がある。食べ物に不自由していない。とりあえず暮らしていく上でお金に困っていない。これだけで私はもう十分ありがたい身の上だ。生きたくても生きられない人もいる。目が見えなかったり、耳が聞こえなかったり、歩けない人もいる。家のない人もいる。毎日の食料に事欠く人もいる。生きていくのに最低限必要なお金に困っている人もいる。
ちょっといやなことがあったってそれがなに?今のこの身の上に感謝です。

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2011-02-24 : 今月のオススメ : コメント : 0 : トラックバック : 0
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伊坂幸太郎 『ゴールデンスランバー』

ゴールデンスランバー (新潮文庫)ゴールデンスランバー (新潮文庫)
(2010/11/26)
伊坂 幸太郎

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国家規模の「権力」によって首相暗殺の犯人に仕立て上げられた平凡な男の逃走劇、というまるで映画のようにスケールの大きなエンターテイメントを小説で見事にやってみせたのがこの作品。

逃げる男の緊迫感あふれる現在と、おだやかに時が流れていた大学時代の記憶を行ったりきたりしながら語られるストーリーは展開が速く、伏線ともなる細部までの緻密な描写とあいまって視覚的なイメージを呼び起こし、まるで映像作品を観ているような感覚に陥る。ページをめくるのがもどかしい。

しかしこの作品が秀逸なのは、男の逃走劇という本編の前に2つの章が置かれているところである。この2つの章はこの事件がメディアを通して国民にどう伝えられ、国民がどう受け取ったのか、そして事件後の顛末と20年後に客観的にこの事件がどう捉えられているかが描かれている。

これらの章はまず後から始まる本編の巧妙に張られた伏線の役目を果たしている。そしてまたこれを先に提示しておくことで本編を読み進めるほどに、本当はこういうことだったのか、それがこうねじ曲げられたのかということがよりはっきりし、いかに「権力」が簡単に事件をでっち上げ、メディアがその嘘を伝えるのか。国民はいかに簡単にそれに踊らされるのかが浮かび上がる。それが本編の追い詰められていく怖さや緊張感を増しさせている。

こうしてみるとプロットもさることながら、いかにして物語を語るか。どのようにどういう順番で語るか、という構成の部分がこの作品の真髄であると感じる。そしてこの作品で著者はもう1つ別のことを読者に突きつけている。

この作品のように権力によって悪者にでっち上げられるということは、けしてありえないことでも他人事でもない。昨年には検察が証拠を捏造した事件が明るみに出たし、とある町で住人がこぞって選挙法違反で捕まえられ、しかし裁判で無罪となる事件もあった。権力によるでっち上げは私たちのすぐ隣に、いや私たち自身にも降りかからないとはいえないのだ。それなのに、冷静に見ればおかしなことであっても、国民はいとも簡単にそうした嘘に踊らされる。むしろ自分が当事者でなければそういう「事件」をアトラクションのように楽しみ、何処か進んでメディアに踊らされもするのだ。

著者はこのことについて、いいとも悪いとも、どうしろとも、どうすべきだとも言っていない。ただ淡々と権力によるでっち上げと、国民の「良識」の本当の姿を描いているだけである。だが、淡々と描かれるゆえに余計に背筋が冷たくなる。この作品、非常によく出来たエンターテイメントであるが、それだけに終わらない奥の深さがある。

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2011-01-24 : 今月のオススメ : コメント : 0 : トラックバック : 1
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ぐーたらうりぼう

Author:ぐーたらうりぼう
またの名をharuri
文章を読んだり、書いたり、音楽を聴いたり、考え事をしたり、いろんな所を歩いたりしています。
読むのは主に小説、好きなジャンルは時代小説です。

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